御剣の携帯電話にとある人物から連絡が入る。
その人物は度々御剣の頭を悩ませ、出来ることならあまり関わりたくないと思っていた。
忙しい振りをして着信に出ないでいると、今度はメールがきた。
『成歩堂の事で話がある』
気になる用件に急いで仕事を片付け、指定された居酒屋へと着いたのは約束の時間を十五分程過ぎた頃。
「遅っせぇーよ!」
先に注文を済ませて箸をつけていたのは、矢張。
成歩堂の事で話がある、と呼びつけのはこの男。
「私は君みたいに暇ではない」
溜息をついて、御剣は矢張の横に座った。
「で、話とは?」
御剣の注文した飲み物がきて、話しだす。
「実はさぁ、俺よぉ。……成歩堂に告ろうと思うんだ」
予想外の台詞に、ブフォ!と御剣はむせた。
「な、なっ!告る、だと」
「俺、変なんだよぉ!成歩堂の事ばっか考えるんだ。でも相談できるのはお前くらいしかいないし」
相変わらず男女問わずモテる罪作りな恋人の顔を頭に浮かべた。
その当人は全くそのつもりはないのだが。
御剣と成歩堂は特別な間柄である。
わざわざ公言する事でもないから周りに言う機会もなく。
「い、いくら女性にモテないからって。勘違いしてるのだよ」
「勘違いぃ?」
「成歩堂がお前の我儘を聞いてくれるから、それに甘えてるだけだ」
「それだけで頭一杯になるかよっ」
御剣は何とか諭そうとする。
自分が成歩堂の恋人であると言えたら、こんな相談等受けなくても良いのに。
が、当然矢張が告ると知って、それを許す程御剣の心も広くはない。
「ともかく、諦めろ。結果はみえている」
「ひでぇ……。いいよもう!当たって砕けてやるっ!」
矢張は携帯電話を取り出すと、成歩堂にかけた。
「おい……!」
店内だというのに大きな声で話す二人に、店員や他の客達の視線が集まる。
「成歩堂っ!好きだっ!」
「やかましいっ!」
ある意味、見世物になっている羞恥で御剣はベシッと矢張の頭を叩いた。
「いてっ!……な、何ぃ!」
通話しながら矢張の顔が青ざめ、それからフルフルと拳を握った。
「御剣……お前…成歩堂の何なんだよォ!」
通話を切るのも忘れて携帯電話を御剣に投げつける。
『もしもし?矢張?』
咄嗟に受け止めたそれから成歩堂の声が聞こえ、御剣は耳に当てた。
「私だ」
「始めっから言えよな!俺が馬鹿みたいだろーが!」
矢張がジャケットを手にして、捨て台詞を残して店から出ていった。
『帰った?』
「あぁ。自分の分も払わずにな」
電話越しに成歩堂がクス、と笑う。
「ところで……何を言ったんだ?」
『ねぇ御剣』
急に成歩堂の声が低くなる。
『……言って欲しかった、恋人だって』
「それは」
『僕は言ったよ。肝心な時に言えないんじゃ本当は本気じゃないんでしょ……バカ』
「成歩堂!」
プツリと通話が切れて御剣が焦りだす。
自分だって、言えたら…と思っていたのに臆病になっていた。
それが彼の心を傷付けたらしい。
慌てて会計を済まし、成歩堂のもとへと急ぐ。
顔を見て、きちんと話し合って。
今度は矢張にキッパリ告げよう。
「成歩堂の恋人は私だ」
終
二度目のキリリクにも関わらず、リクエストを受け付けていただきました。う、嬉しすぎる…!