limitazione



(うわ!マズいなー約束の時間に間に合わない)

道を急ぎながら成歩堂は、先に待っているだろう彼らの姿を想像し、冷や汗を垂らす。あの二人に借りを作ったら、後でどんな無理難題を吹っ掛けられるか―――。

顔色をビリジアンに変えながら、一段と歩く速度を上げる。いや、すでに走っていると言ってもいいくらいだ。脇に抱えた鞄が落ちないよう、しっかりと押さえながら。

(もしかしたら――二人とも遅れているかもしれない)

・・・・なんて。そんな都合のイイ事ないよな、ははは・・・。自身に入れたツッコミと乾いた笑いが、空しく響いた。無駄に時間にきっちりしている二人と、どちらかと言えばルーズな質の成歩堂では待ち合わせ自体無謀な事。

何度繰り返しても懲りない(遅れる度にペナルティを食らっても、だ)成歩堂は、もうそれが快感になってるのではないかと勘繰りたくなる。

そして今日も道を急ぎ、待ち構えている二人をどうやって宥めようかと頭を悩ますのだった。


一方――――。

成歩堂の予想通り、約束の5分前には到着し、今かとばかりに待ち構えている二人の男性。背が高く、スラリとした体躯が遠くからでも見て取れる。

同じように腕を組み、同じように憮然とした態度で立っている。まるで、相手が此処に居る事が不本意だと言わんばかりに。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

重い沈黙が辺りに漂い、そこを避けるように人が過ぎて行く。もう少し雰囲気が柔らかければ、声を掛けようという女性もいるのだろうに。


そこへ―――。

「お待たせしました!」

犠牲(いけにえ)のように飛び込んで来た、一人の男。膝に手を付き、息を整えている。
「すいません、急いで来たんですが―――」

顔を上げ、続きを口にしようとして・・・失敗した。二人の顔を見て固まったとも、言える。

「待ってたぜ」
「待ちくたびれちまったぜ」

重なるようにして、発せられた言葉。それはそれは゛素敵な笑顔゛と共に。組んでいた腕を下ろし、憮然とした態度など欠片も見当らない。

右の手をゴドーが。
左の手を神乃木が掴む。

引き上げられた格好になった成歩堂は、二人に掴まれたまま視線だけを左右に向けた。

「あの・・・・二人して何を・・・」

またしても冷や汗を垂らしながら、問う。なんとなくイヤな予感がするのは゛デジャヴ゛というヤツか。

「何って、お誘いだぜ?」
「そうさ。舞踏会に遅れて来たお姫様を、もっと楽しいトコロに連れて行く――その為に手を取ったんだが」

『断らないよな?』

ニヤリではない、ニッコリと音がしそうなほど爽やかな笑顔と柔らかな口調。だというのに寒気を感じるのは、何故だろう。

(風邪でも引いたかな・・・)

思わず、現実逃避を図る成歩堂がいた。だが、彼が惚けている間にも現実は進む。掴んだ手を今度は両側から組まれ、まるで連行される被告人の様である。もしくはドナドナか。どちらにしろ、逃げられぬ事は間違いない。

「あの・・・・」

それでも果敢にチャレンジしようというのか、両側の二人に声を掛ける。上目遣いで伺えば、双方から「なんだ?」(断るとは、言わせない)威圧を感じ言葉を途切れさせる。

「いえ・・・何でもありません」

そう言うしかない成歩堂がいた。それを聞いた二人は、今度はニヤリと笑い「素直なコネコちゃんには、たっぷりとご褒美をやるからな」「期待してくれよ?」嬉しくない予告をしてくれた。

「ハハハ・・・・・・」

最早、笑うしかない成歩堂と楽しげな二人がいるのだった。

そして連れて来られたのは。成歩堂からすれば、別世界としか言い様のないゴドー宅。高層マンションの最上階に位置するその部屋は――いや。もう家と言っても良いだろう。何しろその階全てがゴドーの持ち物。何故一人暮らしなのにそんな広さが必要なのか、庶民の成歩堂には計りがたい。

あれよという間にリビングに引き込まれ、気が付けば手には珈琲の入ったマグを持って。勿論、両側にはゴドーと神乃木。こちらはブラックだろう、芳しい香りを漂わせている。

「今日はオレが先だぜ?」
「クッ!仕方ねえな。だが、あまり時間をかけるなよ?」
「ハ、そいつは確約出来ねえってモンさ」
「なんだと?」
「先回の、自分の行動を思い返してみな」
「何かあったかい?」
「しらばっくれてんじゃねえよ」
「クッ。離せねえのさ・・・判るだろう?」
「まあ―――確かにな」

゛何の話だ゛とはツッコミたくない成歩堂を余所に、二人の相談は纏まってしまった。それも嬉しくない方向で・・・。

「ならば゛二人゛で――」
ヤるのがいいだろうさ。

コトリと置かれたマグの音が、やけに響く。
命綱のように掴まっていたマグを取り上げられ「成歩堂」呼ばれた事が合図。


立ち上がった二人に再び、今度は自ら手を差し出して。向かう先に待つモノは・・・。

(――制限のない快楽――)


end。

limitazione⇒制限。





オマケ。

「アンタは本当に懲りないコネコちゃんだな」
「ううう・・・」
「たまには、オレたちより早く来てみな」
「――そしたら、何かイイことでもあるんですか?」
「そうだな・・・」
「もっとサービスしてやるさ」
(要らねえ!!)

しまい。





ゴドナル究極形の、ゴドナル神ですよ!この字面だけで、御飯3杯はいける管理人です(意味不明)
遅れても、時間通りでも餌食になるコネコ。ライオンと狼に対してコネコ一匹じゃあ、常に飢餓状態でしょうね(笑)