我儘な接吻



 「寒くねぇか?」
 「ええ。大丈夫です」

 大晦日の深夜。ゴドーと成歩堂は連れだって近所の寺院へと向かっていた。
 時間のせいか、寒さのせいか辺りに人通りはあまりない。
 
 
 「ゴドーさんちから歩いて行ける距離にお参りできるところがあったなんて知らなかったですよ」
 成歩堂は白い息を漂わせながら、はしゃいだ声をあげる。

 「ああ。古い寺院でな。天然記念物に指定されている枝垂れ桜があるんだが、咲くと見事なんだぜ」
 「それは凄そうですね。咲いたら一緒にみに行きましょうね?」

 無邪気に笑う姿が愛しくて、ゴドーは成歩堂の左手を握って自分のコートのポケットにしまった。
 
 繋いだ指先がいやにくすぐったくて。
 成歩堂は小さく笑う。
 

 「―――参拝客に除夜の鐘をつかせてくれるんだが…コネコちゃんもやるかい?」
 「ぼくよりゴドーさんがやった方がいいんじゃないんですか?」
 煩悩のカタマリみたいなもんなんですから、と成歩堂は頭いっこぶん上にあるゴドーの顔を軽く睨む。

 「違えねぇ」
 ニヤリといやらしく笑うとゴドーは身を屈めて成歩堂の頬に素早くくちづける。

 「な!?ちょっとゴドーさんっ」
 「今年最後のちゅうだぜ」
 「ちゅうとか云わないてくださいよっ!というより、公道で!!」
 頬をおさえて叫ぶ成歩堂にゴドーは再び笑う。

 「アンタが云ったんだろう?『煩悩のカタマリみたいなもんなんですから』ってな」
 「うう…無駄に似ている物真似はやめてくださいよっ」
 「なんだ?口にして欲しかったのかい?」
 「ちーがーうーっ!」

 真っ赤になって否定する成歩堂に、ふいにゴドーは真面目な顔をして。

 「オレが口にしたいのさ」

 なんて云うから。

 「…狡いですよ、そんなカオ…」

 ぼくだって本当は口にして欲しいです、と成歩堂はポケットの中のゴドーの指を握り返しながら小さな声で呟く。

 恥ずかしがりながらも応えてくれた成歩堂にゴドーが我慢できる筈もなく。
 
 「…お参りはいいのかい、コネコちゃん?」

 言外に家に帰ろうと促す。

 「ぼくの信じる神はあなただけですから」

 勝ち気な眼差しを向けてそんな事を云う成歩堂に、ゴドーはもろ手をあげる。

 「来年もアンタには敵いそうもねぇな」
 「ふふ。もう今年ですよ?ゴドーさん」

 苦笑するゴドーに成歩堂は腕時計をみせる。

 「なら今年最初のちゅうをするまでさ」
 「口に、ですか?」
 「異議あんのかい?」
 「ないですよ?」

 そう云って眼を閉じた成歩堂の唇に触れるだけのくちづけを落とす。

 「続きはウチで、な」
 「う…は、はい」

 甘い期待に成歩堂は素直に頷いた。


 願わくば。

 今年も一緒に時を刻めますように。

 列んで歩きながら成歩堂は心の中で"神"に祈った―――


end20090101





4万hit記念のフリー小説との事で、『 奇蹟 』の池之神聖士朗さまから、貰ってきました。
ナルにベタ惚れのゴドさんが、ツボなんですよね〜。