林檎の魔法



 「お土産だぜ、コネコちゃん?」
 そう云ってゴドーが手渡したのは成歩堂の顔より大きいリンゴであった。

 「好物だろう?」

 「はい!わあ、ありがとうございます!」
 すごいな〜、大きいな〜などと子供みたいにはしゃぐ成歩堂にゴドーの頬が緩む。

 「かじってみようかな〜」
 なにせ普通のリンゴの数倍の大きさなのだ。いつも通りに剥いて食べるのは勿体ない気がする。

 かぷり、と大きく口をあけてかじってみると。
 爽やかな酸味と溢れる果汁に成歩堂は瞳を輝かせた。

 「おいしい!」
 「気に入ってくれてなによりだぜ」

 ますます口元を緩めたゴドーが成歩堂の頭を撫でる。
 無邪気に喜ぶ年下の恋人がたまらなく愛しい。


 「ぐっ!?」
 しばらくしゃりしゃりと音をたててリンゴを食べていた成歩堂が突然あげた声に驚いてゴドーが振り向くと。
 そこには顔を真っ赤にして咳込んでいる成歩堂が居た。
 足元にリンゴが転がっている事から察するにおそらく器官にでも入ってしまったのだろう。

 「おい、大丈夫か!?」
 激しく咳込む成歩堂を介抱しようと抱き上げた弾みに口からぽろりとリンゴの欠片が出た。


 「…はー、苦しかった。すみません、ゴドーさん」
 背中を摩ってもらい落ち着いた成歩堂が礼を述べると。
 「…まったくアンタは…まるきり白雪姫だったぜ」
 呆れたように、ゴドーが笑った。

 「…?」
 「毒リンゴを食べたお姫サンは王子のキスで目覚めたという事になっているが、実際は違うのさ」

 毒リンゴを食べた白雪姫はリンゴの欠片を喉につまらせて仮死状態に陥ってしまう。
 仮死状態とも知らずに小人達は、死してなお美しいままの白雪姫を埋葬するのが惜しくて硝子の棺に納めた。
 そこを通り掛かった王子様が姫の美貌に誘われて抱き上げたところ、口からリンゴの欠片が出て、仮死状態だった白雪姫は無事に意識を取り戻したのだ。

 「…その後はアンタも知っての通り、王子サマにお持ち帰りされちゃうのさ」
 意味深にニヤリと笑うゴドーに成歩堂は苦笑する。

 「お持ち帰りって……でも白雪姫って本当はそんな話だったんですか。なんで間違って伝わってるんでしょうね?」

 成歩堂は果物ナイフでリンゴの皮を剥きながら呟いた。
 また詰まらせては大変だからとゴドーが過保護にも剥いて食べるように促したからだ。


 「決まってるじゃねぇか」
 いつものように気障な微笑みとともに優雅な長い指がのびてきて成歩堂の細い顎を擽る。

 「んっ…」
 甘い予感に小さく喉を鳴らす初な恋人に、ゴドーは殊更ゆっくりと顔を近付けて柔らかくくちづけた。


 「ふっ…う…!」
 艶やかな吐息を漏らす唇を名残惜し気な顔で開放してやるとゴドーは笑みを深くして耳元で囁く。

 「そのほうが色気がある話になるから、だぜ?」

 お伽話に色気を求めるのもどうかと思うが、やはりキスで目覚めるほうが浪漫があると成歩堂も思う。

 「そうですね。異議なし、です」

 恋人同士の語らいには、少し艶っぽい甘い話がいい。

 お伽話に酔いしれるような、うっとりとした眼差しに、誘われるままゴドーは再び唇を重ねる。


 それは甘い林檎の魔法―――


end20080706





4万hit記念のフリー小説との事で、『 奇蹟 』の池之神聖士朗さまから貰ってきました。
私も、ナルを持ち帰りたい…